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2024.04.27

小出兼久コラム

煉瓦物語/煉瓦の建物が人気がある理由

煉瓦建築は持続可能な建築となり得るか?

南アフリカの煉瓦住宅地開発(Manaka Milkwood project)

煉瓦の建物は建築環境の主役

紀元前の日干し煉瓦の時代から今の煉瓦建物に至るまで、煉瓦建物は、何千年にもわたって建築環境の主役であり続けています。これは、粘土を採取して焼成し、煉瓦を作るというプロセスが、世界の多くの地域で安定して行いやすく、煉瓦の入手可能性を非常に高いものにさせていることと関係があるのでしょう。煉瓦の建物を建てようとすると、それが容易くできる地域が多いということです。これは現代にも続いています。

南アフリカの住宅地

例えば、南アフリカの東ケープ州に、エリザベスポートという港湾都市があります。エリザベスポートは人口30万ほどの南アフリカ第5の都市ですが、周囲の衛星都市を加えたその都市圏は人口80万人を抱える、東ケープ州を代表する都市となっています。自動車産業がさかんで、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズ、フォードモーターなどの工場があるのですが、ここに最近、630戸、将来的に1000人を超える人々が居住可能な住宅地ができました。

煉瓦の住宅地


その開発コンセプトは職住接近の、手ごろな価格の住宅の提供です。月収15000ランド、日本円にして月収94500円ほどの所得者が対象となっています。
住宅の外観は煉瓦で統一されており、そのために多くの煉瓦が焼かれました。ピーク時には1日10万個の煉瓦が納品されたと言います。
この煉瓦住宅は、煉瓦の自然で温かみのある風合いをうまく活用していて雰囲気がよいだけでなく、外壁が煉瓦ゆえにメンテナンスが少なくてすみ、冬は暖かく夏は涼しく、冷房がいらないと評判をとっています。
また、二重壁の煉瓦構造は防音効果だけでなく室内の湿気を抑える効果もあり、結露を防ぎ、シロアリやカビ、昆虫やネズミの害を防ぎ、室内にVOC(揮発性有機化合物※大気汚染物質)のような有毒ガスを発生させません。
そして、その宅地は深い自然の中にあるように設計されているのですが、これは、既存の樹木を取り除かずにほぼ保全したことによって成り立っており、貴重なミルクウッドの木も残され、それは開発地の名称にも取り入れられました。共同体がひとつの小さな村のようなたたずまいとなっていて、昔からあったかのように存在しています。これは、なかなかに煉瓦の住宅の良さを集めた開発ではないかと思います。

煉瓦のアドバンテージ

煉瓦には他の追随を許さない長寿性があります。そのため、建物を長い間存続させることができるのです。
これは煉瓦の大きなアドバンテージで、さらに煉瓦建物には防音効果があり、洪水や風害、雷などの自然災害に強く、木材のように腐ったりすることもなく、不燃性なので火災にも強く、変色や侵食、さびることもありません。世界の多くの地域で煉瓦住宅が世界の主流として建てられ続けているのは、このように、煉瓦自体の使い勝手のよさに多くが起因しているのです。

煉瓦建築は持続可能な建築でしょうか。

答えは、YES。はい、そうなり得ると私は考えています。
前回、煉瓦建築が持続可能であるかどうかについては、英国の情報なども踏まえて、煉瓦の製造プロセスと建物自体の持続可能性の二つの側面に分けて考える必要があると述べました。
それについて、より具体的に言うのならば、煉瓦建築は、1)建材、2)施工、3)建物の3つの段階で、それぞれ持続可能性を実現せねばなりません。

持続可能な煉瓦建築

1)建材:製造・輸送・保管のプロセス
2)施工:工法、職工とエネルギー消費
3)建物:配置・地形・通風・日照および気候変動対策と設計、内装材料と設計、室内環境、ライフスタイル

この3つの側面でエネルギー消費を抑え、廃棄物を減らし、水の汚染を防ぎ、水の消費および二酸化炭素排出を減らす、こうしたことが持続可能な建築へとつながるでしょう。
実際には、何度か記事にも書きましたが、煉瓦の製造プロセスにおいて持続可能な目標を満たすように、技術革新や煉瓦のデザインの更新が行われています。
今後さらにそれらが推し進められることはもとより、施工段階での工夫や建物設計、内部設計においても、持続可能性が追及されていく傾向はあり、その必要性は増しています。

しかし、煉瓦の構造と一口に言っても、昔ながらの伝統的な二重壁構造から、単一壁構造、煉瓦ベニヤ、煉瓦タイルのように種類があり、それぞれのメリットデメリットがあります。注意したいことは、煉瓦建築のメリットもデメリットも多元的に論じられるものであり、単一の視点で見ていては、煉瓦の良さを知れないという点です。持続可能性は追求すべき課題ですが、それだけで煉瓦を語るのも片手落ちだということです。

私たちは、南アフリカの例にとどまらず煉瓦の建物がなぜ人気があるのか、というテーマを見つめつつ、他方、煉瓦を単なる悪と捉えずにその製造におけるエネルギー消費や二酸化炭素排出をどうにかして削減しようとする、このような姿勢をとることが、私たちの実生活、将来の住宅事情に沿った解決策になるのではないかと、私は思っています。

フロンヴィルホームズ名古屋の手がける煉瓦の家
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▶著者情報/小出兼久

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。