煉瓦物語/循環型経済と煉瓦、低炭素住宅
循環型経済について
現在の経済は、地球から資源を取り出してそれをもとに製品を作り、最終的にはそれを廃棄物として廃棄します。このプロセスは直線的かつ一方通行で、このままいくと未来には資源は枯渇し、その一方で、不要になったゴミが社会に積みあがってしまいます。現在の二酸化炭素などの大量の排出は地球の温暖化につながるので、二酸化炭素の排出も抑制する方向にあります。
現在の経済を循環型経済へ移行していかなければなりません。
循環型経済のプロセスは一方的な直線ではなくて、循環する円となります。それは、製品が廃棄されることを止め、資源も新しい採取を極力減らして製品を作るか、すでに存在する製品をうまく回していこうという経済です。それには3つの原則があります。
1)廃棄物と汚染、二酸化炭素を排除すること
2)製品も材料も最高の価値で流通させること
3)自然を再生すること
循環型経済と煉瓦住宅
煉瓦の未来を考えて、循環型経済にのせるようとするならば、この3つの原則を満たすように考えなければならないのだと思います。1)は、負の置き土産や排出を削減することです。前号で述べた英国の報告では、建築環境から排出される二酸化炭素の量が国全体の排出量の約45%を占めるとあります。そのため、建物からの二酸化炭素の排出量を減らすことが重要なのですが、そもそも建物が出す二酸化炭素がなにから生じているのかと言えば、多くは、建物の冷暖房に使用するエネルギー消費と、調理や風呂など人間の活動に必要な照明やガス、電気といったユーティリティエネルギーの消費によるものです。これらは、それぞれの分野で二酸化炭素もゴミの排出も少なく抑えるように調整してもらうしかありません。しかし、それ以外のところで、建設材料も実は二酸化炭素排出の大きな原因となっています。このことは最近まで、ネットゼロ(負荷あるいは排出ゼロ)の目標を効果的に達成する方法を検討する際でも、現代まで見過ごされてきました。
今日の世界において、建設プロジェクトで使用されている煉瓦のほとんどは、歴史的で伝統的な焼成方法にて作られています。しかしこの方法は、環境に大きな悪影響を及ぼします。ひとつに採掘場跡地が問題となっています。原料を掘るだけ掘ってその時期は人が集まり栄えた街も、原料を掘りつくしたらさびれてしまいます。そのような跡地の処遇は米国でも英国でも問題となっており、成功例には、近隣住民の憩いの公園として再整備したものや、観光地としてよみがえらせた例があります。
とはいえ、循環型経済の道では、資源は掘りつくさず、新しい採取はできるだけ抑えた製造プロセスを開発するのが肝要であり、第27回、28回でも触れましたが、多くの煉瓦のメーカーは、焼成プロセスや焼成窯を二酸化炭素あまり排出しない効率的なものへ革新したり、煉瓦の仕様を伝統的なものからより薄く小さく変えたりして、二酸化炭素の排出を削減する方向で動いています。住宅の煉瓦積みの壁も二重壁から単体壁に変化させるようなデザイン的な変更もしています。逆に言えば、こうした革新を行えないメーカーでは競争が難しくなるかもしれません。
人工環境の脱炭素化は進んでいきます。脱炭素といってもゼロへ脱するのは難しいので、低炭素にするということです。それは、これから住宅を建てる際に「低炭素住宅」を考えていかなければならないという世界で、それがもう始まっています。
しかしその広い普及には、政府からの支援をより多く注ぎ込んでほしいところです。例えば、オーストラリアで煉瓦が高価なことがあって煉瓦ベニアという構造が生み出され市民の住宅が大きく普及したように、低炭素建物という今までの建物に対する代替案は、必然から生まれなければ定着しません。だから、例えば、環境にやさしい材料を地元で使用や製造するならばインセンティブが与えられるということや、新しい建材の研究開発に対して政府がもっと支援してほしいと思うのです。
低炭素住宅をどうとらえるか
最後に、ここまで書いておいて、それをひっくり返すようなことを言います。誤解のないように言いたいのですが、煉瓦の住宅は二酸化炭素の排出を一方的に責められるような代物ではないと思うのです。煉瓦が焼成と乾燥の際に多量のエネルギーを消費し、二酸化炭素を多く排出するのは本当ですが、それも世界的には削減化が進んでいると、前回前々回に書きました。さらに大事なのは、建物を建てる時にはその将来の環境への影響にも目を向ける必要があるということで、つまり、可能な限りエネルギー効率を高め、使用する材料についても戦略的に考えて住宅を建てようということになります。
煉瓦は建物の温度を自然に調整します。冬は熱を保持し夏は建物を涼しく保ち、冷暖房のコストを抑えてくれます。それから耐久性、建て替えの可否について、煉瓦住宅は他の材料の住宅と比べることも大事でしょう。低炭素住宅については、こうした総合的な見地から語られなければならないと思うのです。
煉瓦材を利用した低炭素住宅。設計者によれば寿命は150年もあるという。
フロンヴィルホームズ名古屋の手がける煉瓦の家
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▶著者情報/小出兼久
特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。
建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。