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2024.03.10

小出兼久コラム

煉瓦物語/煉瓦の未来は描けるのか vol.2


では煉瓦を生産する企業は、煉瓦についてどのような未来を描いているのでしょうか。

煉瓦の生産を次世代へ続けるためには、さまざまな改良や改善をしていく必要があります。煉瓦において問題となるのは、焼成時に多くのエネルギーを消費することで、これはつまり、多くの二酸化炭素(CO2)の排出を意味します(煉瓦は乾燥時にも多くのCO2を排出します)。そのため、CO2排出の削減には第一に、製造に用いるエネルギーを少なくしなければなりません。

しかしながら、煉瓦が建設において物理的強度を発揮するには、窯での焼成は必要不可欠な過程です。焼かない煉瓦の開発も進められているとはいえ、まだまだ焼成煉瓦のほうが一般的で、手に入れやすく、市場需要が高いです。今後もその傾向が続くことは間違いなく、となれば、煉瓦の製造メーカーは、煉瓦の製造においてエネルギー効率と持続可能性を未来に向けていかに達成するのか、考えていかなければならないのです。

ともすると、「煉瓦はCO2排出からみて悪ではないのか」という問題に立ち向かうために、企業の挑戦が続いています。ベルギーの製造業者ヴァンダーサンデンのCEOジャン・ピエール・ウィタックは、この問題について興味深いことを、そのインタビューで述べています。かいつまんでここに紹介しましょう。

EUは昨年7月に、2050年までにCO2ニュートラルを達成するための一連の計画を発表しました。それに合わせたのか、ヴァンダーサンデンも、2050年までにファサード煉瓦と舗装煉瓦の製造時におけるエネルギー消費を大幅に削減するために、100%クリーンでエネルギー的に中立な焼成プロセスの確立をめざすとしています。

そのために取られる方法は、主に2つ述べられています。
1つは、煉瓦の規格を見直すというものです。

今現在、汎用的な煉瓦の寸法というと210×100×60だと思うのですが、この厚み60mmというもの、昔は100mmあったそうで、今日では65から80mmあたりがヴァンダーサンデンでも一般的なようです。ここで、煉瓦の厚みが減れば、それだけ原材料を節約することができ、CO2の排出量も減ることになります。現在のヴァンダーサンデンは、ECO煉瓦ストリップ(※ストリップとは狭い小片の意味)と称した厚みを18mmに減らしたファサード煉瓦に注力しており、そうすることで原材料を70%以上削減し、エネルギー消費は半分に削減するそうです。そしてさらに、現在は、トンネル窯にカセット方式で入れて焼成している煉瓦を、ローラー式のオーブン窯にし、エネルギー消費量も70%以上削減することを目標としています。また、扱う煉瓦の厚みが減れば一度に輸送できる数も変化します。それは、輸送の際に消費されるエネルギーや、それに伴って排出されるCO2の量も削減することになります。

ヴァンダーサンデンはすでに、18mmよりも薄いファサード煉瓦、厚さわずか15mmの煉瓦スリップの製造にも取り組んでいます。この薄い面煉瓦が市場を席巻する傾向は、ヴァンダーサンデンメーカーだけでなく、国内外の煉瓦製造業者によって行われていますが、ここで思い起こすのは、イギリス積みのような二重構造壁の昔ながらの煉瓦建物はいよいよ遠く過去のものとなり、また、オーストラリアの煉瓦べニアのような構造へと、煉瓦建物は変化していくのだなということです。

持続可能な煉瓦の生産へ、ヴァンダーサンデンの見解では、移行は2つの段階で行われ、完了するそうです。今現在から2030年までの最初の段階では、ファサード煉瓦や舗装用煉瓦の製造プロセスでのエネルギー消費とCO2排出量を大幅に削減し、そうすれば、そのエネルギー必要量を代替エネルギーでまかなうことができるようになります。そして次に2030年から2050年の間で、100%グリーンでエネルギーに中立な焼成プロセスを実現する、と述べています。


ジャン・ピエール・ウィタックは、煉瓦の未来をこう述べています。

「建物と煉瓦の生産は大きく変わるでしょう。エネルギー効率は、バイヤーやプロジェクト開発者、およびサプライヤーにとって(持続可能性実現のための)重要な推進力です。私たちの野心は持続可能性の最前線にあり、すでにこの変革の計画と実現に取り組んでいます」

最後に、短く述べますが、彼らの変革計画の2つ目は、CO2陰性煉瓦(ネガティブブリック)の開発です。循環経済に煉瓦製造を組み込むために、CO2排出をゼロにするばかりでなくCO2を吸収する煉瓦を開発することです。そのための研究に着手しています。……CO2を取り出して岩石の中に閉じ込める技術は2017年ごろからありますが、価格や需要、規模が問題でした。しかしながら、既存の技術のすべてを活用して持続可能性の実現を目指すことは気候変動対策や温暖化対策、環境修復にとって、世界の命題であります。そのために、今後は本格的に煉瓦を循環経済(ものの無駄がでない、水もCO2もエネルギーも何もかも循環の輪の中にいる経済)に取り込もうというのです。

煉瓦の未来は描けるのか vol.1はこちら
▶著者情報/小出兼久

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。