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2024.03.08

小出兼久コラム

煉瓦物語/煉瓦の未来は描けるのか vol.1


壁面が印象的な煉瓦建物:現代の煉瓦デザインは非常に繊細で前衛的である。

持続可能な開発目標(SDGs)がもてはやされています。
それは私たちの社会にとって、確かに必要なことだと思いますが、なんでも、どの業種でも、どの製品でも、どの開発でも、SDGsを達成できるのかと言えば、なかなかに難しいのが現状でしょう。だからこそ実現することが重要になるのですが、それはつまり、ある製品が持続可能な製品であるか、特にカーボンニュートラルな製造過程で製造されているか、環境に負荷をかけていないか、と、私たちが、自らの目を厳しくし、活動も律していかなければならないことを意味しています。その覚悟が私たちにあるのでしょうか。

さて、本題ですが、煉瓦の未来についてこんな話があります。曰く、建材としての煉瓦の未来は終わっているのではないか、と。

私は最近、その問いに答える興味深いインタビュー記事を読みました。それをかいつまんでお知らせする前に、煉瓦のいいところをおさらいしておくことにします。

煉瓦の建物の外観は非常に美しいです。重厚で荘厳な歴史を感じさせます。気候によっては長いこと存在することがが可能で(紀元前に日干し煉瓦で建てられた古代ウルクの住居遺跡群が今も残っているという事実もさることながら、現代の構造とほぼ変わらないであろう中世の焼成煉瓦の建物が今も現存することも鑑みれば、煉瓦建物の寿命は木造のそれとは比べられないほどに長いと言えます)、世界の多くの場所では、木材よりも煉瓦の材料が手に入りやすく、ゆえに煉瓦は製造されやすく、安価あるいは適正価格で入手しやすい建材であります。世界的に木材の価格が高騰し、量自体が不足している状況も相まって、煉瓦の需要は伸びており、それはそれで、適切な煉瓦工の世界的な取り合いになってしまっており、未来に向かって煉瓦の需要が落ち込むということは、考えにくい現況にあります。

しかしながら、煉瓦の未来を考えるとき、そこにはクリアすべき問題があるのもまた事実です。これについて過去にも述べましたが、ここに簡単に再掲します。

煉瓦は土を使います。煉瓦とは、地面から掘り取った土を、昔は、石炭や木材を燃やして焼成させて作っていました(ここですでに、採掘場跡の利用問題や、採掘場という環境破壊の問題もあります)。この「燃焼」という行為は、大量の二酸化炭素を生み出し、二酸化炭素はGHG(温室効果ガス)の最有力選手ゆえに、それが温暖化や気候変動に大きな負の影響を与えていると問題になっています。ゆえに、カーボンニュートラル(炭素中立)、つまり、製品の製造や人間の活動の過程で排出される二酸化炭素の量と、森林など自然によって吸収される二酸化炭素を等しくしよう(プラマイゼロ=中立)という考え方が出てきました。しかしこの物差しでは、煉瓦という存在自体、環境にやさしくつくることはできないために、簡単に言えば、煉瓦は「不適」の烙印を押されてしまいます。現在ではガスや電気で製造する窯も多いですが、それは二酸化炭素の排出を削減するもののガスはゼロにはせず、また、電気の場合、その場での二酸化炭素排出はゼロになりますが、電気を作る時点で二酸化炭素が排出されます。つまり、どうあがいても二酸化炭素排出をゼロにすることは難しく、それが、煉瓦に限らずどのようなものでも製品を生産するという行為なので、排出ゼロではなく、ニュートラル(収支±ゼロ)という発想に至るのは、当然の帰結と言えます。が、しかし、セメントレンガや中空ブロックの製造も同様のものであり、セメントや砂の採掘も煉瓦と同じ問題を抱えています。そしてまた、建材を作ったところでそれから建物を建設するのには労力と費用がかかり、最後にできるものと言えば、壁や建物です。だとすると、煉瓦という素材が建材として妥当か、セメントや他の製品の方がいいのか、木材はどうか、と、カーボンニュートラル(あるいはSDGs)的にも、他の材料との比較が必要です。比較は簡単にできるものではなく、耐久性や堅牢性、耐候性、費用、施工容易性なども照らし合わせなければならないので非常に難しいのですが、しなければならないでしょう。そのために、煉瓦自体を深く内省する必要があります。

では、煉瓦の製造業者が描く、煉瓦の未来とはどのような絵なのでしょうか。
(煉瓦の未来は描けるのか vol.2に続く)

内装の一部に煉瓦タイルを使用。建築は現代風の建物。

▶著者情報/小出兼久

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。