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小出兼久の煉瓦物語 【第24回 煉瓦とルイス・カーンの建物(2)】

小出兼久の煉瓦物語

第24回 煉瓦とルイス・カーンの建物(2)

ルイス・カーンの作品でもうひとつ紹介したいものがあります。

1974年に彼によって設計されたインド経営大学院(経営研究所)アーメダバード校(IIM-A)です。IIM-Aはインドの最高学府のひとつであり、インドで最もよく知られた建物です。創始者のヴィクラム・サラバイ、フォード財団およびハーバードビジネススクール、国、多くの支援の下につくられたインドの明日を担う研究機関です。

さて、この設計でカーンが対話したのは、教室という空間とではないかと考えられます。つまり、教室をいかに効率的に配置するかという問題に直面して彼が考えたのは、教室というものの意義でした。彼は、教室が学生たちにとっては学習の初期段階に接するにすぎない教育インフラストラクチャである、そう設計することに疑問を呈したのです。折しも、時代は現代化の潮流が建築にも押し寄せており、もちろんそれは、インドでも例外ではありませんでした。インドの実業家たちの一部は、自国の産業を発展させるために、特定の職能の進歩に焦点を当てる新しい学際的で国際的な学校の設立を希望していました。教室に一日中座って抗議を受けることよりも、より西洋的なスタイルの教育を取り入れた新しい考え方を持った学校を作ろうとしていました。

そして出来上がったカーンの設計は、教室のみが学びの場であるのではなく、教育は建物の内外で行われるもので、建物内にであっても教室にはとどまらない、というものとなりました。訪れた人が、キャンパスを指して「気の遠くなるような大きさ」と評したくなるのも分かります。これは、単に大きさのことを言うのみならず、その意匠がそう感じさせるのでしょう。うちに入り込んでしまえば、荘厳といえるほどの建物の中から眺める自然風景が映り、外に出ると、一帯から遠ざかるほどその一体感というか、建物が生きてそこに立ち上がっている感覚が大きくなっていきます。これらを総括して建築の印象を述べれば、むき出しの赤レンガ、宿泊設備や学術ブロックでの幾何学的形状の広範な使用、教室の外にある広大な廊下と続くハーバードステップと呼ばれる大階段などがあり、IIM-Aのキャンパスは、カーンの生涯と芸術と仕事の物語が散りばめられたものであると、彼の伝記の作者レッサーは述べています。

カーンは、遺跡あるいは古代建築の要素を自らの建築に組み込むことを好んで行っていました。単純な外壁と現代的な内装の組み合わせを一例として、どのような作品でも、古代と現代の要素が見てとれます。IIM-Aの設計は、インドへのオマージュとして、伝統的な建築と現代の建築を巧みに組み合わせ、赤煉瓦やコンクリートを使っています。これらは地元で生産された材料であり、建築は大きな幾何学的なファサードを取り入れたヴァナキュラー(その土地固有の)建築でした。クライアントからは当初輸入材料を求められたとか、地元での生産は地元の労働経済や環境には貢献しますが、品質管理などの点で多くの解決すべき問題があったことなど、進行は一筋縄にはいかないものであったことが分かっています。それでも、近代建築とインドの伝統をインド経営大学院にしか適用できないカーンの方法であることは間違いありません。 残念ながら、カーンはプロジェクトが終了する前に1974年にニューヨーク市で亡くなったため、本人は、彼のデザインが実現するのを見ることができませんでした。しかし、彼のデザインが、現代建築が自分たちの文化にどの王に定着しうるかを示し、その後の建築を完全に変えたと言うことができます。今年、インド経営大学院は、18残る施設のうちの14を解体する計画を発表しましたが、カーンの遺族をはじめとした国際的な反対にあって、計画を中止しています。

小出兼久 ランドスケープアーキテクト,ASLA, 岡山県立大学非常勤講師

BLOG :http://koidekanehisa.thyme.jp/koide/
Email. k.koide@docomo.ne.jp

山の中にある研究室