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小出兼久の煉瓦物語【 第14回 クリンクルクランクル壁】

小出兼久の煉瓦物語

【 第14回 クリンクルクランクル壁】

煉瓦のどこが魅力的なのかと言えば、そのデザインです。中でも、煉瓦で曲線が造られているのを見ると、その優美な様子にワクワクしてしまいます。煉瓦の構造物をあれこれ見て分かったのは、直線が最良の解決策ではないということでした。例えば、煉瓦で造る塀を真っ直ぐな壁ではなく写真のように壁を曲がりくねった壁にすると、まっすぐな壁よりも使用する煉瓦が少なくなります。つまり、それだけ費用が安く済むということですが、メリットはそれだけではありません。その他に、施工にかかる時間がすくなくてすむことや、強度が高いという点が挙げられるそうです。

ところでこの曲がりくねった壁の呼び名は、波状壁というのか? それとも曲がりくねった壁でいいのか? なんと呼ぶのが適当なのだろうと思って調べましたが、英国ではクリンクルクランクル壁と呼ばれているようです。ではこの「クリンクルクランクル」の意味は?と、調べたところ、同じ意味をもつアルファベットを重ねたもので、1598年には使われていたようです。が、庭の壁の名前になったのは、18世紀だとか。どうやら「緩く弧を描いてねじ曲がった」という意味が順当ですね。それにしても、クリンクルクランクル、響きの良い言葉だと思います。

このクリンクルクランクル壁は、庭の境界、隣地との境界などで多く使われています。それは、このゆるやかにカーブした美観が人々に好まれるからかと思いましたが、それだけが理由ではないようです。その大きな理由は、この壁が煉瓦1枚の厚さで造るという手軽さにもありました。

通常、煉瓦1枚の厚さで真っ直ぐな壁を造ったら、薄くて、強度も低く使いものになりません。倒れやすくなります。しかし、クリンクルクランクル壁は、壁の凸状と凹状の交互の曲線が安定性を提供し、横方向の力に抵抗するのに役立つつくりとなっています。真っ直ぐな壁が同じ数の煉瓦を使用している場合、つまり一層の煉瓦積みの場合、それはすぐに倒れます。他方、クリンクルクランクルの壁は、真っ直ぐな壁よりも、風のような水平方向の力に抵抗します。これは、この湾曲した形状が十分な安定性を提供するためです。
壁に使用される材料の量は、その長さと厚さの積に比例します。クリンクルクランクル壁は、2倍の厚さのまっすぐな壁とほぼ同じ数のレンガを使用します。

この壁には18世紀にまでさかのぼる長い歴史があります。なかでもサフォークで人気があり、サフォーク州には、英国の他の地域の2倍のこの壁があると言います。サフォーク州にクリンクルクランクル壁が多いのは、1600年代半ばにオランダの技術者たちが、フェンズの沼地の排水をする際に、これらの壁の建設を行ったからだそうです。クリンクルクランクルとはサフォークの方言だと言われますが、元々はヘビの壁と、オランダからの技術者たちからは呼ばれていました。

他方このクリンクルクランクル壁、米国にもありました。調べていたらその最も有名な例はバージニア大学で、第3代アメリカ大統領であるトーマス・ジェファーソンがそれを建築に取り入れたそうです。バージニア大学は1819年に、トーマス・ジェファーソンによって設立されました。これは、彼が大統領を退いた後の話です。彼はこの大学の敷地設計に深くかかわっていました。この大学が出来てバージニア州の州民は高等教育を受けるために他州へ出ずにすんだということです。その近くには、ジェファーソンの自宅モンティチェロがあります。彼はモンティチェロも設計しており、建築やランドスケープに深くかかわった方でした。余談ですが、私はモンティチェロを訪ねたことがあります。夏の頃、白亜の建物に芝生の緑とクレオメが映えて美しかったこと、自給自足の菜園が理路整然と広がっていて大きく、ティーピーが美しく立派な野菜が実っていたこと、そこからの眺めが素晴らしかったこと、編んだ菜園の壁が黒々と美しかったこと、などが思い出されます。

最後に。今年の4月にエジプトルで古代都市が発掘されました。3000年以上前のその都市からクリンクルクランクル壁の元となった構造が発掘されています。

小出兼久 ランドスケープアーキテクト,ASLA, 岡山県立大学非常勤講師

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Email. k.koide@docomo.ne.jp

山の中にある研究室