資料請求

小出兼久の煉瓦物語 【第6回 普通煉瓦と耐火煉瓦】

小出兼久の煉瓦物語

【第6回 普通煉瓦と耐火煉瓦】

煉瓦の建物は、夏は涼しく冬は暖かいものです。そのため、気候変動対策としても冷暖房費の節約としても、適していることが分かりました。しかし自分としては、それはあくまで付加価値のひとつであって、煉瓦の魅力のすべてというわけではありません(それもかなり魅力的ですが)。私が煉瓦に惹かれるのは、もっと力強くて単純な理由なのです。

それは、煉瓦が日本の復興や経済に密接に関わっていたということです。それが驚きでした。新しい世界が広がったような新鮮さが日本の煉瓦にはあります。面白いです。

この想いは、私の人生や仕事からの影響が大きいのではないかと思います。私は、若いころに、ヨーロッパで煉瓦と出会いました。それから、中東や米国、世界のあちこちで煉瓦の建物や煉瓦の美しい街並みを目にしました。しかし、あの頃そこまで煉瓦に惹かれなかったのは、おそらく、煉瓦の街並みは日本からは縁遠くて他の国のこと、ようするに身近に感じられなかったからではないかと思います。また、ランドスケープアーキテクチャという職業上、煉瓦は庭の小道など、デザインを構成するためのひとつの部材であり、それ以上でもそれ以下でもなかったのです。むしろ、1990年代に始まった空前のガーデンブームの中で(私もブームに火をつけたうちの一人と自負していますが)、バーベキュー窯や小道など煉瓦の構造物は、イングリッシュガーデンの安直な物真似のような気がして、もっと違う使い方(デザイン)があるのではないかと思いましたが、あまり興味を惹かれませんでした。

しかしです。ここで最近1年の話となります。最近、明治の時代に、実は日本でも煉瓦の街を造ろうとしていたことを知りました。しかもそれは、単に見た目が理由でのことではなく、実益(防火対策)から新しい都市の創生を見つめたものでした。私は、そのころの人々の気概に感じ入りました。当時のわくわくとした高揚感を想像できます。そして、それ以上に大きな魅力も知りました。それが、耐火煉瓦との出会いです。

耐火煉瓦とは

煉瓦にも種類があることをご存知でしょうか。古くは、焼いた煉瓦と焼いていない煉瓦、いわゆる普通煉瓦と日干し煉瓦に分かれます。焼いてある煉瓦も、普通煉瓦(赤煉瓦)と耐火煉瓦に大別されます。普通煉瓦とは通常私たちが目にしている煉瓦で、建物や構造物などに使われているものです。ある程度の耐火性はありますが、非常な高温にさらされたら、もろくなってしまいます(予期せぬ非常に高温の火災など)。これに対して耐火煉瓦というのは、ある想定の高温に耐えられるように焼かれた煉瓦のことを言います。耐温についてはこまかく分かれていますが、私はその道の専門家ではないので、詳しいことは煉瓦のJIS規格(日本工業規格)をみてみてください。ここで特性や寸法が定められています。

この連載ではおおざっぱなことを言います。例えば、ピザを焼く窯をつくるとします。そのときの構造ですが、内側はピザを焼くときに出る熱に耐えなければなりません。そのため、窯の内部は耐火煉瓦で仕上げられ、外側は化粧に煉瓦を使ったり、タイルを使ったりしています。暖炉もそうですし、野外のバーベキューのコンロなどもそうです。この耐火煉瓦、使い道はこういう身近なものだけではありません。それよりも本命の使い方で、日本の発展に大きな役割を果たしてきました。それはなんでしょうか。

答えは製鉄です。鉄の溶鉱炉(反射炉)に耐火煉瓦が必要なのです。

日本で製鉄のための反射式溶鉱炉は、幕末の薩摩藩で始まったそうです。これは、幕府よりも欧米の動向に通じ、武器を集めていた薩摩らしい話だと思います。当時、反射炉のための煉瓦が日本国内で初めて焼かれることになりましたが、誰も今までにそんなもの焼いたことがありません。そこでは陶工から瓦工、石工などが関わって造られたようです。明治になると、煉瓦は日本各地で生産されるようになりました。普通煉瓦だけでなく耐火煉瓦もです。その後、普通煉瓦は、関東大震災をきっかけに表舞台の主役の座を降りることになりましたが、耐火煉瓦は、今日でも日本の溶鉱炉を支え続けています。明治から大正、昭和、戦前、そして戦後の高度成長期。製鉄がいかに日本の経済を引っ張ってきたか、皆さんご存知ではないでしょうか。それを実は(耐火)煉瓦が支えていたわけです。

例えば、反射炉を1基つくるのに耐火煉瓦が何個いるのかと言うと、およそ2万個だそうです。そしてこれはつくって終わりではなく、メンテナンスや修理をしながら今日まで存続しているわけです。ちっぽけな耐火煉瓦が日本の経済を、ひいては、私たちの社会を下支えしてきたのだということ、当時から今まで作り続けて支えている人々がいる、そのことに私は感動を覚えました。西洋のものだと思っていた煉瓦が、初めて身近に感じられました。煉瓦は実は私たちの暮しと共にあったのです。そしてそれは、今でも続いています。

このようにして、私は煉瓦の魅力に取りつかれたわけです。普通煉瓦と耐火煉瓦、調べれば調べるほどどちらにもさまざまな逸話があり、奥深いもので興味は尽きません。この連載では煉瓦一般を幅広く扱いますが、その時々の興味に応じて、さまざまな切り口から煉瓦の魅力を発信していく予定です。

最後に一つ。

普通煉瓦と耐火煉瓦は材料や製法などの仕様も異なれば施工法、利用法も異なるので、利用の際は専門家に聞くなど注意をすることが必要です。

小出兼久の設計研究室では、庭の相談の他、あなたの庭の大きさに合わせたピザ釜の制作も承っております。

燃料(薪・木炭・ガス)に応じて釜の構造が異なりますので、詳細は打ち合わせください。(地域の法令で可能な燃料を使用いたします)

窯の大きさは直径30cmまでのピザなら焼くことができるもので、設置場所、デザインなどは庭に合わせたオーダーメイドです。お気軽にご相談ください。

小出兼久 ランドスケープアーキテクト,ASLA, 岡山県立大学非常勤講師

BLOG :http://koidekanehisa.thyme.jp/koide/
Email. k.koide@docomo.ne.jp

山の中にある設計研究室