愛知県初の木造複合型クリニック
名古屋市東区で建築中の愛知県初のツーバイフォーとCLTを組み合わせた木造3階建ての複合型クリニック(医療法人名甲会)が、木材産業界の雑誌「ウッドミック」に取り上げられましたので記事をご紹介します。
古くからの武家屋敷の街並みを残しつつ、閑静な高級住宅街として人気がある愛知県名古屋市の白壁エリアに、2×4工法とCLTを組み合わせた木造3階建ての大規模な複合型クリニック(愛知県名古屋市東区白壁3丁目2211)が建設されている。手掛けているのは、国内でもいち早く2×4工法を取り入れ、1986年の創業から900棟以上の注文住宅を手掛けてきた木造のプロフェッショナルであるフロンヴィルホームズ名古屋㈱(愛知県名古屋市昭和区上山町4-3-2、黒川雄斗代表取締役社長、☎052-890-9630)。同社は注文住宅の他、5年程前より2×4工法とCLTなどのエンジニアートウッドを組み合わせた非住宅物件を手掛けるようになって、木造建築の魅力を広めるべく、去る2月13日(木)に構造見学会を開催した。会場には建築関係者など約100名が来場し、その注目度の高さが伺えた。
木の香りで患者が癒されるクリニック
施主の「地域の方々の憩いの場となる医療モールにしたい」という、かねてからの構想が、患者に安心して治療を受けてほしいという想いとあいまって、香りや温もりで人々を癒す「木造」という選択に至った。
このクリニックの建築面積は、246.83㎡、延床面積は712.92㎡。1階は内科、2階は整形外科、3階には約100㎡の大きなリハビリ室。様々な治療が受けられるようX線室や手術室なども完備された地域の大型複合クリニックだ。
同物件は、2×4工法の床スラブに、ヒノキ・スギ材を使った厚さ210㎜の7層CLTの大判を使うことで、柱のない大空間を実現した準耐火構造である。床スラブのCLTはそのまま天井部の現わしとして、エントランスやエレベーターホール、1階内科待合室(35.19㎡)、2階整形外科の待合室(44.28㎡)で活かされている。現わしで見える部分は節の少ない上品なヒノキが使われ、来院者は、その優しい木目と香りに包まれ癒される。また、CLT板は軒裏まで延長し、外から現わしとして見える意匠性の高い設計となっている。
使われるCLTや構造材は、㈱サイプレス・スナダヤ(愛媛県)が製造、加工はヒノキブン㈱(愛知県)が担当し、愛知県の西三河地方から産出された「あいち認証材」が213㎡使用されている。
愛知県の「木の香る都市づくり補助金」を活用しているのも同物件の特徴だ。県内では、径が大きい長尺材の十分な確保が難しいが、2×4材は短尺材をフィンガージョイントすることで調達可能にした。またそれは、愛知県産材の積極的な活用に繋げることが出来る。建物全体に使われた木材で、CO2を約130t(スギ520本分に相当)も貯蔵するそうだ。
壁の面材には、優れた強度・耐久性や、気密性の高さ、施工のしやすさなど、部材を数多く使う大規模な木造建築に適したカナダ産OSBが採用されている。
木の香りによる患者や医療従事者へのリラックス効果や、優れた断熱性、歩き心地・ケガのリスクに係わる衝撃吸収などの優れた木材の特性は、様々な症状を抱えた患者が行き来する医療施設との相性は非常に良いようだ。
見学会では、同社の黒川雄斗社長と、設計を担当した福田太郎氏が登壇し、「木造ならではの補助金の活用」、「ツーバイフォーだからできた、施設建築設計のポイント」の演題で、非住宅木造建築を検討する人々へ向けたセミナーも催された。
補助金活用セミナーでは、国産材利用が推奨される中、木造建築の補助金には、JAS認定材やCLT材の活用、木造建築技術に関わるものまで、様々な種類があることが紹介された。今回の事例も含め、施工業者が原木調達の川上から、生産・加工の川下までと連携し、幅広い視点で持続可能な木材利用サイクルを考えていった点が補助金申請に有利に働いた、と解説された。補助金申請のいろはを聞ける貴重な機会に、木造に取りかかろうとする関係者にとっては大きな学びの場となったに違いない。
建築設計の観点からは、2×4工法のシンプルな面構造は、複雑な構造設計や特注部材も必要なく、コスト面や施工スケジュールなど、施主側に建築プランを提案しやすい点が挙げられた。また、同工法の施工のしやすさや高い耐震性に加え、枠組構造による火が燃え広がりにくい特性(ファイヤーストップ構造)は、規模の大きい非住宅建築に於いて更に活かすことが出来ると主張された。
床スラブのCLTも、あらかじめ工場で加工することで現場の作業効率が上がり、RC造に比べはるかに短工期を実現する。去年の11月に施工に着手し、構造躯体が組みあがった期間はたった3週間ほど。全体の完成までも7ヵ月の予定だそうだ。他にも、CLT板の厚みが生む高い耐火性や遮音性、スパンを飛ばし空間を広げる構造材としての特性など、2×4工法との親和性の高さも語られた。また、講演の中では、建築過程で苦労した面も語られ、狭小地故の大判CLTを運ぶクレーン配置の工夫など、作業現場に合わせたアイデアが聞けたのも貴重な機会となった。
黒川雄斗社長「2年前に手掛けた、2×4工法とCLTの自動車学校の木造校舎(弊誌2023年9月号既報)をきっかけに、弊社の業務範囲がどんどん広がっている。木造建築の魅力を伝え、非住宅木造建築の普及に繋がれば…」と、木造建築が少ない3階建て以上の非住宅建築分野を新たなビジネスチャンスと捉え、業界全体の更なる木材利用への想いが発信された見学会となった。
引用元 2025年4月 ウッドミック