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2024.11.11

小出兼久コラム

小出兼久さんのご冥福を

煉瓦物語のコラム著者でもあり、特にランドスケープアーキテクトとしてご活躍された、小出兼久さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。

煉瓦物語 持続可能な煉瓦の再考

私は、これまでさまざまな切り口で煉瓦について語ってきたつもりですが、その中で語り残したことはないかと思いを巡らせた結果、もう一度、煉瓦の未来について語っておこうかと言う気になりました。
ずばり煉瓦の未来とは何か?
これからの煉瓦に求められていることとは?
こうした問いについて、以前にも考えています。
その答えとして、「持続可能性(sustainability サステナビリティ)」が、カギを握っているのではないかと答えてきました。が、この持続可能性について再び話をしたくなりましたので、最後にまとめておきます。

煉瓦とコンクリートや木材などでつくられる住宅の新しい可能性

持続可能な煉瓦
持続可能な煉瓦建築の再考
煉瓦建物とレジリエンス

持続可能な煉瓦

持続可能という言葉をよく聞くようになりました。
持続可能な開発目標(SDGs エス・ディ・ジーズ)という言葉が広く普及をしてきています。ごく簡単にこれを説明するならば、「環境にやさしい」ということになるでしょう。
それは、物をつくるのも、消費をするのも、私たちが日々の移動をするのも、家を建てるのも……せんじ詰めれば、人間がどのような活動をする際も、「環境にやさしく」あらねばならないというもので、そうあるための目標が持続可能な開発目標となります。これは幾つも目標があるのですが、これらを維持すれば、持続可能な製品や社会ができあがる、という意味で、さまざまな分野の視点から設定をされているのです。

環境にやさしい、ということ

私たちは、開発、製造、消費、あるいはすべての行動を、環境に負荷をかけないよう、次世代へ持続可能な未来を引き継がせられるように、行わなければならないのです。
しかし、この提唱は今さらではあります。
このようなこと(持続可能であること)は1990年代からずっと呼びかけられていました。当時からすでに実践もされてきています。しかし当時から最近までそれほど広まらなかった。それが、21世紀になり、令和になると、より広く、多くの人が実践をしなければならない当たり前のテーマとになってしまいました。

その大きな原因

21世紀になって、二酸化炭素などの温室効果ガスが気候変動の原因としたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)のような、国際社会の意識の変化によるのでしょう。温暖化も気候の激化も私たちの生活に直接の影響を及ぼすようになりました。このことを人々が実感すればするほど、現状をこれ以上悪化させないように、二酸化炭素排出量を抑制するために、環境にこれ以上の負荷を与えない、自然を壊さず次世代へ送るという持続可能性というものに重きを置いた実践が必要だと認識するようになったわけです。
この理想、言い換えるならある種の呪縛ですが、それから煉瓦も逃れることはできません。
「持続可能なものとして存続させていかなければ煉瓦の未来はない」と、煉瓦産業に携わる人々は考えるようになっています。その大きな要因は、現代の私たちが使う煉瓦(焼成煉瓦)の製造プロセスで、多量の二酸化炭素を排出するからでしょう。このデメリットあるいはうしろめたさは、煉瓦の製造技術の革新を導き、焼成効率の良いオーブンを進歩させ、煉瓦の規格を変化させて従来よりも軽く薄いものを生み出し、あるいは、そもそも焼かずにすむ煉瓦(バイオブロック)を誕生させました。この流れは今後も続くことでしょう。

煉瓦は持続可能なものとして、大きく前進

例えば、英国煉瓦協会は、2001年から煉瓦のサステナビリティレポートを作成しています。それは、エネルギー、炭素、材料、廃棄物(ゴミ)、水、生物多様性、健康健全についてKPI(重要業績評価指数)を精緻化し、企業間で共通の目標を設定するのに役立っています。
より詳しく言うと、このレポートは、持続可能な煉瓦をつくるために実行すべきプロセスが適切に行われているかどうかを数値化して評価します。どのような行動をすればよいのか評価基準を統一して打ち出すことで、組織の課題に総力で取り組む姿勢を打ち出しているのです。こうした数値で目標が出されるとわかりやすいですから、各煉瓦製造企業のモチベにもつながります。レポートは、彼らが目標を達成できるように手助けをしているのです。
このようなやり方は、日本でも大いに参考になることと思います。
持続可能な建築への要求は高まっています。しかしここで私たちは、煉瓦の製造プロセスの持続可能性と、建物自体の持続可能性を区別して考えなければなりません。なぜなら煉瓦は作って終わりではなくて、「環境負荷の抑制・二酸化炭素排出の抑制」においては、どのように用いられるかも重要であるからです。

持続可能な煉瓦建築の再考

焼成煉瓦(私たちが使う煉瓦)の製造過程では、焼成の過程で二酸化炭素を排出します。そのため、煉瓦は悪だと思う方も多いようです。煉瓦は一般に900℃から1200℃で2日焼かれ、このとき相当なエネルギーが必要となります。古くは木材や石炭などの化石エネルギーを、新しい技術では電気のオーブンを用いて焼成をしますが、いずれも大きなエネルギーを消費し、そして、エネルギーの燃焼は二酸化炭素を排出するのです。とはいえ、近年は機器の省エネ化が進み、また、焼成時に出る廃熱を煉瓦の乾燥に利用するなどの技術的革新が進んだこともあって、煉瓦製造におけるエネルギーの使用量は、全体でみれば昔よりも削減をされています。ひいては、二酸化炭素の排出量も大きく減っています。このため、煉瓦産業は持続可能な方向へ舵を切っているとみなすことができます。

英国のケース

EUにいた間はEU-ETS(EUの排出権取引制度)を、EU離脱後はEU-ETSに似たUK-ETS(英国排出権取引制度)を開始して、地元での煉瓦材料の調達や生産、消費を行い、体積炭素をできるだけ低く抑えているという現実があります。豊富な原材料や地産地消という短いサプライチェーンは、既存のシステムの中にあって、低炭素排出にとって有利な存在であり、このことは、日本のように自前の煉瓦よりも多くを海外からの輸入に依存し地産地消が難しい消費地ではすぐにまねできることではないものの、多くの示唆に富んでいます。

煉瓦でできた建物は長寿

しかし、この側面のみで、煉瓦は持続可能な製品だと言うのはいささか性急すぎるようです。これは、煉瓦は持続可能ではないという反論ではなく、その製造プロセスにのみ焦点をあてるべきではないという意味です。なぜなら、煉瓦の建材としての最大の特徴は、その長寿性ではないかと思うからです。日干しの煉瓦は、過去から現在、何千年にわたって建築環境の主役の一人であり続けており、また、今日私たちがよく用いる焼成煉瓦という製品が生み出された後、煉瓦は他の建築材料の追随をゆるさないほどの長寿を誇っています。一般に、適切に製造された煉瓦を適切な設計施工で用いたならば、煉瓦建築物の寿命は150年と言われます。この、時に対する耐久性は、どのような建築材料よりも持続可能と言えるのではないでしょうか。今なお残る多くの煉瓦建物が、この言説を証明しています。


古い建物を解体して出たアンティーク煉瓦を敷いた通路

煉瓦建物とレジリエンス

煉瓦建物を建てるメリットは、この長寿性以外にも、なんらかの被害に対する適応性や弾力性(レジリエンス)にもあります。災害に遭った場合、煉瓦建物ならば、一部を修理するのが容易く、また、もしも建物の寿命がきたとしても、解体後に煉瓦の一つ一つを別の要素に使うことができます。一体どのような建物が、建物の寿命が尽きた時、再利用、再生、リサイクルが可能な部品や建築材料だけでつくられることができるでしょうか。その意味で煉瓦建物は、木造住宅よりも優位かもしれません。
この考え方は、物は作られた時から廃棄へ向かっているという直線経済の考え方ではなく、物は一度使われただけで廃棄されることは許容できないという循環経済の考え方です。煉瓦建物は循環経済の中で、その良さを大いに発揮することができるのです。
持続可能な製品や成果物というものが、今日の社会ではより望まれるようになってきました。そのことは否定すべきことではなく、そのため、煉瓦の未来もその上に立って考えるべきであると思います。それだけの魅力が煉瓦にはあります。しかしながら、日本での短いサプライチェーンの構築は、英国など他の産地のようには上手くいかないでしょう。また、気候風土、自然災害の差によって求められる耐久度も海外と日本のそれとでは異なっています。そのため、日本において煉瓦建築が木造住宅よりも優れていると断じることはできませんし、また、断じる意義もありません。要は、状況に応じた判断が求められるだけのことで、そのための情報は、ますます必要になるということなのです。
ただ、煉瓦の持続可能性に「時の耐久性」を考慮することは必要であり、煉瓦建物の長寿性という要素も、持続可能性を測るひとつの物差しとして、もっと重用されるべきであると考えています。

最後に

ここまで踏まえておきながら、持続可能な製品の需要は、人口増加から生まれることを、私たちは認識しておくべきでしょう。となると、人口増加が望めないのであれば、持続可能な製品は果たしてすべて正義であるのか、その進むべき道は誰もが行くべき道であるのか、と私は思います。例えば、品質重視で現代的な材料と工法からなる製品と、近在的な材料と工法からなる製品は、時にぶつかり合うこともありますが、このとき、持続可能な製品を選ぶことは必ずしも最先端を意味しないのと同様に、物がいつまでももつという耐久性はとても重要でありながら、いつまでももつということは果たして誰にとっても良いことであるのか日本社会の行く末をおもいながら、疑問に思ってしまうのです。同様に、持続可能であることばかりもてはやすのも些かどうかと思うのです。

住宅の供給において量とスピードは大事です。これは、入手可能で手ごろな価格の住宅がいつでも手に入るということですが、それと同じくらい住宅の寿命は大きな問題で、一生使える家を求める人も多くあります。しかし、世帯のライフスタイルは時とともに変化していきます。それに今の家がいつまでも対応してくれるのでしょうか。

ああ本当に、住みたい家ひとつについても、多くの考えるべきことがらがあるのです。それを知ることは時に困難であったり、時に面倒であったりします。

しかし、それでも私は、多くの情報を得たいと思っています。それはさながら、幾重にも撚られた糸の中から、自分にとって有用な蜘蛛の糸を探す心地に似ています。そのような気持ちで、この連載を綴ってきました。もしもこの連載が契機となって、どなたか一人でも煉瓦や煉瓦建物に興味をもっていただき、それが救いとなったなら、幸甚と存じます。


フロンヴィルホームズ名古屋の手がける煉瓦の家
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