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2024.02.26

小出兼久コラム

煉瓦物語/オーストラリアの煉瓦事情vol.2

日本において、煉瓦は主要な建材のひとつであるという認識は、決して多いものではありません。しかし世界的に見れば、煉瓦は時代を超越した建材であり、趣深い設計要素のひとつとして歓迎されています。とはいえ、どの地域でも煉瓦がたくさん手に入り、煉瓦住宅が適しているというわけではありません(だからこそ日本では煉瓦があまり流行っていないのですが)。

オーストラリアにおける煉瓦建物

前回述べたオーストラリアの煉瓦事情では、煉瓦の住宅を地域の風土や煉瓦の需給、当時の経済などに合わせた結果として生まれた、独特の仕様が見られました。
それが、単一壁の煉瓦ベニヤ住宅です。これは、一般の市民が元々の仕様である二重壁の煉瓦住宅を、経済事情や市場入手可能性などから建てることができなくとも、こちらの方法なら煉瓦住宅が建てられるとして、生まれたものです。煉瓦ベニヤは組積造ベニアとも呼ばれます。煉瓦ベニヤの家は、内部構造として鉄鋼あるいは木造のフレームを持っており、外側の煉瓦壁または煉瓦や金属製のクラッディングが家の支えを囲んでいます。伝統的な二重壁の煉瓦住宅では二重壁が家の構造を支えているのに対し、煉瓦ベニヤの住宅は家が単一煉瓦壁を支えています。

煉瓦ベニヤの住宅構造図

メリットとデメリット

オーストラリアでは現在でも、どちらの仕様の煉瓦住宅が良いか、とか、外観からは二重壁住宅なのか単一壁住宅なのか分からないため二つを見分ける方法、などが人気であり、市民の煉瓦住宅への関心は高いものがあります。ちなみにこのメリットとデメリットですが、煉瓦コストの面では、煉瓦ベニヤは一般的に、二重レンガに比べて安価です。また、煉瓦ベニヤで造られた壁は軽量であるため、構造基礎にかかるコストも削減されます。さらには、二重壁の煉瓦の住宅と異なり、煉瓦壁が家の構造自体を支えているということがないため、内壁の改造や改修が簡単にできます。外観的には煉瓦造りの外観ですので、美観も満足できるものとなります。
次にデメリットです。煉瓦ベニヤ造りの住宅は、熱貫流率的に言えば最高効率にはなりません。一重壁ですので、二重壁ほどの断熱性を発揮しません。ですから、施工時に断熱材を加える必要があります。 木造のフレームは、木造建築と同様に、シロアリの被害を受ける可能性が高くなります。さらに、音の問題として、内壁に触れると中空の音がすることがあります。
二重壁の煉瓦住宅についてのメリットデメリットはおよそですが、上記の煉瓦ベニヤのメリットデメリットを反転させたものとなります。

現代の煉瓦住宅

では、最後に、現代の煉瓦住宅はどのようなものなのでしょうか。
オーストラリアでは、二重壁煉瓦の住宅をリフォームすることも盛んです。前回の写真と一番上の写真は、メルボルン都市圏(メルボルン都市圏というのはメルボルン市を中心に31の自治体が作る生活圏です)にある素朴なシルエットの煉瓦の家で、日本の家と同じくらいの大きさです。これは、地元の建築スタジオ、ブリーズ・アーキテクチャーの手によるもので、もともとは、伝統的な煉瓦造りの家でそれほどコンパクトなものではありませんでした。
4人家族であるクライアントは、1年間のコペンハーゲンでの滞在を経て、当初計画していた広々とした住宅が不要になったことに気づきました。スカンジナビアン・フラットの親密な空間に慣れていたクライアントは、より小規模なプロジェクトを選択してこの家が生まれました。すっきりとしたコンパクトなヴォリュームで、壮大さの中にも本物らしさが感じられる佇まいです。正面のファサードはそのままに、裏側に建築家が手を加え、リサイクル煉瓦を使って、この家に独特の個性を吹き込みました。
この、予算も規模も少ないほうがいい、Less than moreをより明確に表現する住宅が、オーストラリアだけでなく欧米でも最近多くみられます。その分、創造性を膨らませるのです。一見シンプルな外観の中に、ヴィクトリア時代の豊かな歴史を受け継ぐような、必要最低限の要素で構成された素晴らしい空間には、現代的で快適、かつ持続可能な機能性が備えられています。

オーストラリアの煉瓦事情vol.1はこちら

▶著者情報/小出兼久

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。

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