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2024.02.09

小出兼久コラム

煉瓦物語/煉瓦とルイスカーンの建物vol.1

目次
ルイス・カーンの初期の代表作品
講師としてのカーン
バングラデシュ国会議事堂

20世紀を代表する建築家


ルイス・カーンは20世紀を代表する建築家のひとりです。
彼は、ソーク研究所やイエール大学アートギャラリーのような鉄構造のコンクリート建築の現代的な仕様を表現した作家でありますが、その作品には煉瓦を用いた建築も多くあります。
今回は、ルイス・カーンについて取り上げて、煉瓦から近代の建築について少し考えてみたいと思います。

ルイス・カーンの初期の代表作品


ルイス・カーンの初期の代表作品、イエール大学アートギャラリーは、外装は煉瓦で内装はコンクリートの打ちっぱなしという建物です。
この建物に求められたものは、ギャラリー、教室、オープンスペースで、カーンの初期の計画では、中核となる部分に階段やトイレその他のユーティリティ空間(カーンはこれを奉仕空間と呼んでいる)を置き、その両側にオープンスペース(奉仕される空間)が広がっていました。
それまで公共住宅を主に造っていたカーンは、この建物をきっかけにいわゆるブレイクを果たし、注目をされました。
称賛されるところは多くあって、それまでは厄介者のようにとらえられていたユーティリティ空間を奉仕される側の空間と統合して、構造も統合してデザインを行ったところや、窓やドアなどの意匠にこだわったところ、三角の梁構造、階段のらせん状のコンクリート内壁と三角に連なる手すりなど多くが挙げられます。そこに共通するのは、なにをどう創りたいのか、表現したいのかということが、構造とデザインの中に必然的に見て取れるという明確な意思表示です。
窓やドアなど、今の時代になれば決して使い勝手が良いとはいえない部分もありましたが(その後リニューアルもされています)、カーンが惜しみない想像力や創造力を発揮した作家であることは間違いのないことです。

講師としてのカーン

カーンは教室でも教えていました。イエール大学のアートギャラリーの設計は、カーンが非常勤講師になったことがきっかけでした。
あるとき彼は、生徒たちがインスピレーションを得られなくなったと知ると、彼らに対話をするよう促します。
けれど、その対話というのは、クライアントや同じ立場の者(設計家)のグループを相手とする、従来思いつくような対話ではありませんでした。カーンは生徒たちに、素材と対話をすることを勧めたのです。それもごく普通の、よく使われてきた建材と対話をすることを、生徒たちに説いたのです。
これは、設計者は素材と向き合えということでした。素材の限界と可能性を対話から見いだして、それらを適切に使用することを、カーンは望んでいたわけです。
カーン自身もそれを行っています。有名な煉瓦との対話を、カーンの伝記から引用します(原文から訳しているので日本でそれと知られているのと多少異なるかもしれません)。

あなたは煉瓦に「なにが欲しいんだいきみは、煉瓦?」と言う。
煉瓦はあなたに「私はアーチが好きです」と言う。
もしあなたが「アーチは費用がかかるからねえ、開口部にコンクリートのリンテル※なら使えるんだけど。煉瓦、きみはそれについてどう思う?」と、煉瓦に言ったとしても。
煉瓦は言う。「私はアーチが好きです。」 —ルイス・カーン

※リンテルとはまぐさ石。このように支柱と支柱の間にわたされた水平な石のこと。

この会話は、煉瓦のアーチという珍しい外見を取り入れることで終わるのではなく、実は、煉瓦積みの使用はどうあるべきか、どう使うことができるのか、というより深い問いかけであり自身への瞑想であったと、『Brick』の著者ウィリアム・ホールは述べています。

バングラデシュ国会議事堂

カーンの作品のうちの傑作の1つであるバングラデシュ国会議事堂は、煉瓦で外装された巨大な建物です。
上述したホールは、この国会議事堂の完成した構造から判断すると、煉瓦は、最終的にカーンとのアーチに関する対話に勝ったのではないかと述べています。

バングラデシュ国会議事堂は、80ヘクタールの敷地があり、あらゆる議会活動が行われる場所で、議員のための宿舎もレクリエーションの芝生や、湖もある複合施設です。
カーンの作品の典型と言われる傑作です。ここで言う典型とは、土地の言葉と記念碑的な原型を自らのものとし、抽象化してそれを変換し、幾多の時代と文明から続く建築のアイデアを生み出したそのプロセスと結果に対して言われるもので、カーンの作品に共通するものです。

中核となる構成は、高さ30メートルのドーム型の議会場および図書館で、他の8つのブロックとさまざまなレベルで、廊下、エレベーター、階段、ライトコートや円形エリアによって水平方向と垂直方向に相互にリンクされています。
興味深いのが、内部はそうまで込み入っているのに、全体の構造は外部からは1つのストーリーのように見えるということです。
評論家が、彼は「形や美学、技術の源泉は普遍的であるのに他の場所にはあり得ない建物を製作した」と述べているとおり、全体にベンガル地方の歴史文化が色濃くでた建物になっています。

これが煉瓦との対話の結果とすればなんとも面白いことではありませんか。

煉瓦とルイスカーンの建物vol.2はこちら

著者情報/小出兼久

特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。

建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。