煉瓦物語/人気のアンティーク煉瓦、温故知新がもたらす建築への化学反応とは?
世界の都市で、煉瓦の建物が増えているようです。それだけ人気だということですが、これはニュースの多さからも分かります。建築家が現代の建物を建てる際に、建材として古いたてものから取り出した煉瓦を、最新鋭の建物に使うことが流行っているのですが、彼らは口をそろえてこれをエキサイティングだというのです。このために、イギリスなどヨーロッパの中世の建物などの煉瓦は大層人気で、アンティーク煉瓦は現在、大変輸入がしづらくなりました。また、高価でもあります。
古いものと新しいものが出会う場所
私は煉瓦の建物に非常に興味を持っていて、まさに温故知新という言葉のように、煉瓦と現代の建物、古いものと新しいものが出会うことは予期せぬ化学反応を建築にもたらすという意見に賛成をする者です。歴史と革新の両者を、煉瓦が時を超えて結びつけるということが、なんともロマンチックな気分にさせるのです。
英国の古い煉瓦と中世の塗装煉瓦
上の例では、英国の古い煉瓦と中世の塗装煉瓦と現代的な銅の水平面とが出会う形で改装設計された建物が、モダンなオフィス空間としてよみがえりました。この構造は、歴史的建造物の保全という制約の中で機能しており、古いものから新しいものへの劇的な移行を示しています。なお、中央に見られる塗装煉瓦(白い部分)というのは、煉瓦を塗装したもので、この作品では、銅の丘のような、屋根のような平面とのコントラストが白の塗装煉瓦に映えていますが、これについては賛否両論があります。この事例部の白い部分は、中世の煉瓦を塗装しています。しかし、このように塗装をいったんしてしまうと、その塗装の経年劣化に合わせて、塗りなおしというメンテナンスを定期的に行わなければならなくなることはひとつのデメリットと言えるのではないでしょうか。
室内空間での煉瓦の利用
もちろん、煉瓦は建物の外壁だけでなく内側の壁に使うこともできます。写真のように、外壁だけでなく室内の壁面も外と同じにすることによって、この場合、大きな開口部(窓)の効果で、外と中がつながっている効果が助長されます。この室外と室内がつながった効果をだすことが何故良いのか? という問いを受けることがありますが、その答えとしては、統一感がでる、室内が大きく見える(広がりがあるように感じられる)、などの効果があります。
こちらの写真は煉瓦の建物で伝統的に見られるアーチを屋内に持ち込んだ例で、このアーチがあるだけで、空間が非常に個性的なものになっています。さらに、アーチに連なる形で、右に煉瓦でできた暖炉がありますが、この暖炉があることで、煉瓦のアーチと部屋とが違和感なくつながっています。つまり、煉瓦でできた構造物をアーチの他にも室内に設けることによって、「普通は外にあるアーチが室内にあっても場違いに見えない」という空間を創り出すことに、成功しているわけです。アーチが複数見られるのも相乗効果が増しています。アーチというのは、建物以外でも使われ、例えば庭でもよく使う建造物です。アーチは、同じ空間にいるのに別の部屋のような錯覚を作り出します。あるいは、そのアーチを潜り抜けることで、違う部屋へ行くような感覚を抱かせます。いずれも、ひとつの部屋の中に幾つかの部屋が併存する感じにさせるのですが、この効果が室内で使われているのは、非常に面白いと思います。
ちなみに、アーチの歴史は古く、紀元前1400年のメソポタミアにまでさかのぼります。当時のメソポタミアのウルクという古代都市の遺跡(イラク南部)でアーチが見つかっています。そもそもアーチがなんのために建物に設けられたのかと言うと、窓をつくるために造られたと考えられています。レンガのアーチは壁の開口部にまたがり、美観を追加するために建設に使用されているのです。
煉瓦建築には、無限の可能性があるのではないでしょうか。例えば、産地によってさまざまな色味の煉瓦が生まれます。それをただ並べるだけでなく、他の素材と組み合わせたり、室内に持ち込んだり、そういう多様性もあることが分かっていただけたかと思うのですが、これを自分の家でも取り入れたいと思う方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、従来の伝統的な煉瓦建物を多く見ることから始めるといいのではないかと思います。
著者情報
小出兼久
特定非営利活動法人日本ゼリスケープデザイン研究協会(JXDA)代表理事。ランドスケープアーキテクト(ASLA)。1990年代よりランドスケープにおける水保全の研究を始め、2003年の第3回世界水フォーラム京都会議では分科会「庭から水、世界を考える」を主催し、成果の発表と日本で初めてランドスケープにおける水保全の必要性を提唱した。2005年第10回ゼリスケープ会議(米国ニューメキシコ州)および低影響開発国際会議シアトル・アジア地域(米国ワシントン州)に日本から初めて出席。2010年には生物多様性国際条約フェア(COP10国際会議と併催)に出席し、以来、低影響開発の普及を目指して活動を続けている。ランドスケープアーキテクトとして雨の庭を実践した作品群は日本や海外で生物学的な受賞歴を持っている。
建物と庭のトータルデザインを手掛ける点でフロンヴィルホームズ名古屋とは考えがマッチし、特に煉瓦の家に関するプロジェクトに興味を持っていただき、コラムの連載が実現しました。
また、当社のフロントガーデンの一角に、日本初・名古屋初の「雨の庭」のモデルガーデンを施工していただきました。